年頭所感

一般社団法人 日本テキスタイルケア協会

代表理事 住連木 政司

住連木代表理事

 海外のクリーニング関連事業者のインターネットサイトを閲覧していると、“Care”というキーワードが目立つようになってきたことに気づく。“Care”とは「手当てする」「修復する」という意味であり、単なる洗浄行為を指す言葉ではない。

 商品としてのクリーニングは、消費者にとって「洗濯とアイロンの代行」というイメージに固定化されている。その結果、「家事代行は安いほどよい」という価値観が定着し、この産業は長年にわたり低料金競争から抜け出せずにきた。

 一方、工場の現場を見れば、1980年代以降多くの研修組織が結成され、繊維、染色、縫製などの知識を習得しながら、ほつれ補修、色掛け、和服における高度なしみ抜きや黄変修復、テーラードプレスの応用など、生産原価の高い専門技術が日常的に行われている。それらは本来、明確な価値を持つ技術であるにもかかわらず、「サービス」や「高品質クリーニング」の名のもとに、無償、あるいは極めて低い対価で提供されてきた。

 一般産業においては、生産工程に応じた原価が価格に反映されるのが当然である。しかし、この産業では低価格を誇ることが美徳とされ、その結果として需要は6割以上も減少し、多くの事業者が廃業に追い込まれてきた。この背景には、戦後に成立した「衛生的な洗濯屋」という自己規定から脱却できていないという構造的問題がある。

 経済産業省の調査によると日本は欧米以上にラグジュアリー、アッパーミドルファッション市場が大きいと報告されている。今、消費者が費用を払って期待するのは単なる汚れ落としではない。大切な繊維製品を、経年や着用によるダメージから可能な限り回復させる「繊維製品の品質復元」というプロフェッショナルなサービスである。既に現場で行われてきた技術を正当に商品化し、「洗濯」とは異なる価値として提示すること。それこそが、“Care”を中核とした新しいプロフェッショナルテキスタイルケア産業創造への道であり、2026年に臨む私たちの挑戦である。

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